天体「voyage」レビュー



<前 奏>


辰巳加奈


辰巳さんとの付き合いはもう10年以上にもなる。最初に見た時彼女はベースを演奏していた。

とてもまろやかな低音をうたごころ溢れる音色で、そして真横に危うい狂気をあわせもちながら

奏でていたのを覚えている。彼女のライブは深海の底に潜り込まないと発見できないようなもの

を毎回持ち帰ってきているような印象を僕に与えていた。こちらも彼女の音楽に辿りつくために

は素潜りで海に潜るような、「よし今日はボンベ無しだ!」というような心構えが必要だった

のも覚えている。本人の雰囲気もなにかこう、透き通った陶器のような印象だった。間もなく自

分でも歌い出した彼女は自身のグループを結成。その後東京に行きクラシックを習いだしたよう

だ。そしてMujika Easel名義でアルバムリリース。とあるアルバムでは収録トラックの中に激し

い嵐のフィールドレコーディング(これは海の波の音と後日教えてもらう)のトラックが収録さ

れていて、彼女はさらに自分の奥深いところに潜って行ったんだなと思いながら作品を聞いてい

た。そうこうしているうちに風のたよりで、彼女が大阪に帰っていることを聞き2014年の末に

偶然再会した。その時思った。彼女は深海から戻ってきていたということだった。




天体


「天体というユニットやってるんです。」というセリフを彼女から聞いた時、なるほどと思った。

「天体」。海の奥底で探り当てた鉱物を携えて、今度は天体を仰ぎ見るというのだろうか。気の

遠くなるような星の物語を語るような、長い長い歴史に視点を据えたような。


アルバムを聞かせてもらう。なるほど「天体」の物語だ。それぞれ共鳴しあって、引力で引き合

いながら公転している様のような音楽。しかし以前の彼女のソロ作品とは少し雰囲気が違う。明

らかにポジティヴで、より開かれた音楽になっているんじゃないか。

(辰巳さんを知っている僕から見た「天体」の物語)




松本智仁


彼とは面識はない。ギターリストだという。今回のアルバムにギターの「演奏」はない。天体の

ライブではギターとピアノの曲も演奏しているという。はたして彼は「演奏」をしていないのだ

ろうか。




<インタビュー1>


江南:ユニットを組むきっかけを教えてください。「天体」という名前がとても素敵だと思いま

した。どのように思いついたのでしょうか。


松本智仁(以下松本):「以前、私は即興演奏しかやっていなかったので、その反動でずっと曲

を作りたいと思っていました。それである時、辰巳さんが「松本くんが曲を書いたら良いのが出

来そう」って言ってくれて「そしたら試しに作ってみよう」と思って曲が出来て、「ああ良いね

え」って辰巳さんも言ってくれたので、一緒にバンドをやって下さいって頼みました。」

「「天体」という名前は、まず日本語の名前にしたいと思っていてあれこれ考えた末に思いつき

ました。二人とも気に入っています。名前負けしないように頑張ります。」


江南:お互いの最初の印象とアルバム「voyage」を作成した後の印象もあわせて教えてくださ

い。


松本:「辰巳さんは最初会った時は、不健康そうでしたが今はもう健康そうですね。」


辰巳:「松本くんは最初は今時珍しい古風で昔の時代の人の様「謎めいた存在感の人」でした。

今もまあよく分かりませんが、今の時代の人だなあと感じます。天体をはじめる前は松本くんは

即興しかやってなかったし、弾いてる手が見えないくらいの音数の多いギターを弾いていたので、

voyage」のデモを聴かせてもらった時は驚きました。もうひとつ新たな段階に入ったのかな

と思いました。」




松本さんへ


江南:はじめまして。


松本:「江南さんはじめまして。お忙しい所インタビュアーを快諾して頂いて光栄です。ありが

とうございます。」


江南:ピアノの響きについてどう思われますか。


松本:「ギターよりピアノの響きの方が好きです(笑)。ギターの響きと比べるとピアノの方が

残響が長いので音が引き延ばされて減衰して消えて行く様子が好きです。音色はギターもピアノ

もどっちも好きです。」


江南:アルバム楽曲の和声はギターで演奏したものをピアノに置き換えているのでしょうか。


松本:「はい、そうです。ギターで演奏した音を譜面に起こしてピアノでも弾けるようにしまし

た。」


江南:ピアノに置き換えられるとその和音はどのようにひろがっていったのですか。印象を教え

てください。


松本:「響きがとても広くなるように感じられました。ギターより音量が大きいという事も在

ると思いますが、音が混ざって響きがより複雑になると広がりの感じも変化するように思いま

す。」




辰巳さんへ


江南:これまでの他の共演者の楽曲を演奏する時と、「天体」の楽曲を演奏する時でなにか違

いがありますか。


辰巳加奈 (以下辰巳):「集中力が違います。作曲された曲なのに、即興演奏の様なひとつひ

とつ開拓して行っている創造の重み、責任を感じます。自然を創造する様な。そういうのは私の

ソロを演奏する時にもありますが、さらに濃い感じです。テンポが非常に遅いからかなと思いま

す。それによって音と音の間に何らかの歴史の様な物が出来てしまっている気がします。ピアノ

の状態もまるで顕微鏡で見ているように深く感じます。自分だけではどうしようも出来ない様な

領域で演奏している気がします。」































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天体「voyage」レビュー by 江南泰佐(快音採取/Meister Musik/演奏)

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『voyageリリースツアー』


【東京】2016年3月19日(土)会場:立川gallery SEPTIMA

    2016年3月21日(月・祝)会場:四谷 茶会記

【広島】2016年3月27日(日)会場:尾道 光明寺会館

【大阪】2016年4月10日(日)会場:中崎町 創徳庵


ライブの詳細はこちら

<後 奏>


江南:「voyage」というタイトルがとても素敵です。「voyage」にするのはデモ以前から決め

ていたのでしょうか。


松本:「タイトルは完成した後に、辰巳さんにつけてもらいました。僕はタイトルを考えるのが

嫌いなので。天体の楽曲のタイトルは全部、辰巳さんにつけてもらってます。」


辰巳:「そうなんです、最初は番号しか付いていなかったです。でもタイトルはつけたいみたい

なので、私が曲からイメージして付けています。今回の曲を改めてぼーっと聴いている時に、空

の上から海を見ている様な感覚になりました。同じく空の上から何も無い草原の風景も浮かび

ました。他にも場所は違うけれど同じ様な視点からの誰も居ない景色が浮かびました。」


江南:「天体」の音楽はどのような時間帯に響いていることをイメージしていますか。


松本:「時間帯というよりは、一人の時に聴く音楽なのかなと勝手にイメージしてます。」


江南:アルバムの最終パッケージもとてもトータルで楽しみなものとなっています。ネットの配

信ではなく物理的なアルバムという形でリリースすることについては最初から二人で意見は同じ

でしたか。


松本:「はい、同じだったと思います。録音方法やピアノも調律された直後のタイミングを狙っ

て録音したので、現状できる限り音質にはこだわりました。なので、やはりネット配信よりは物

理的なアルバムで出したかったです。録音や音質に関しては、二人で色々話し合ったりして問題

にしている事もあるので、詳細は言えませんが、それをテーマにした作品も計画中です。」


江南:パッケージされている水彩画を描き始めたのはアルバム完成後ですか。「天体」は描くこ

とも含めた活動でもありますか。


松本:「はい、完成後です。絵を自分達で描いたのは頼める人がいなかったからです(笑)。」


江南:アルバムをだしたことで「天体」はどうなりそうな予感ですか。


松本:「全く予想出来ないですねー。さらに、活動が飛躍すれば良いと思いますが、良い意味で

何も変わらなそうです。」


辰巳:「そうですね、特に何も変わらなさそうですけど…。基本引きこもりがちな天体ですが、

はじめて制作物を外に発表するということで、それをきっかけに外へも開けて行くと良いなと思

います。」



以上


文責 江南泰佐(快音採取/Meister Musik/演奏)

enami Taisuke 快音採取 http://otodamaradio.blog16.fc2.com

お二人へ


江南:何回ぐらい演奏を録音されましたか。


松本・辰巳:「丸々2日間レコーディングスタジオで録音に取り組みました。初日はスタジオの

ピアノに慣れることだけで終わってしまいました。」


江南:最近の日本のピアノアルバムはアンビエンスをどのように録音するかが一つのテーマになっ

ていると思いますが、響きを録音することについて苦労した点はありましたか。


辰巳:「まずこのアルバムの楽曲は非常に小さい音で演奏しています。ライブだとわかりやすい

んですが、普通に打鍵した時と、鳴るか鳴らないかくらいのタッチで鍵盤に触れたときでは、音

色や音の響きや存在感がまるで違っていて、後者を選んでいます。なので、苦労した事は音が小

さすぎる為にスタジオの外の音まで拾ってしまった事や、演奏の難しさです。マイキングはエン

ジニアの林さんにお任せして、4種類のマイクをそれぞれ違う距離に置くという方法になりまし

た。結局ミックスで使ったのは最も近距離(弦に極近い)のマイクがほとんどです。なので、ア

ンビエンスというよりは、ピアノのボディの響きです。」


江南:とてもはっきりとしたリズムを感じます。譜面があると聞いています。またテンポ指定も

あると聞いていますが厳密なものでしたか。

作曲にあたってピアノ倍音の周期と楽曲のリズムの同期(とまではいかなくても)を意識しまし

たか。


松本:「譜面はあります。テンポの設定はありますが、厳密ではないです。自然な揺らぎを作り

たかったので、テンポキープが出来ないように遅いテンポを設定しています。作曲時のピアノ倍

音の周期と楽曲のリズムの同期は全く意識していないです。」


辰巳:「倍音の周期は演奏する段階で、無意識かわからないですけど、テンポが遅いので打鍵す

る時間より残響を聴いている時間の方が長いので、必然的に倍音と身体のリズムが同期している

んだと思います。」


江南:いただいた紙資料にはHarold Budd や Arvo Part といったクラシック、現代音楽の作曲

家の名前が挙げられていましたが、実際はこうした音楽を聴いていますか。


松本:「聴いています、どっちも大好きです。」


辰巳:「Harold Buddは名前も知らないです、Arvo Partは人から進められた事があって、2~

3回聴いたくらいです。」


江南:抽象的な音楽ではありますが、緊張感だけではなく、リラックスしたところも感じられ

ました。個人的な感想としては抽象度の高い作品でありながら「開放感」や「明るさ」、さらに

は一種の「若さ」を感じました。それがとてもユニークな印象を僕には与えてくれました。

この二人で演奏すること、おなじ空間にいることに、なにか特別なもの、他の共演者とは違う

なにかがあれば教えてください。


辰巳:「とにかく静かだと思います。気配や空気の様なものが静かです。未知のものと対峙する

新鮮さも常にあります。」




二人の関係もすこしは垣間見れたのではないだろうか。ここからは作曲家としての松本さんに話

を伺うことにする。




<インタビュー2>

 

江南:今回の楽曲をテンポアップで演奏してみるとなにか種明かし的なものがあったりするので

しょうか。(もしあったとしてもこちらでお答えにならないかもしれませんが)


松本:「今回の楽曲は、音と音の間に大きな間を取る事を想定して作ったので、テンポアップで

演奏すると違和感を感じると思います。少なくとも、私はテンポアップを想定していなかったの

で、そのように感じました。テンポダウンさせようと思って作ったのではないので、テンポアッ

プしても種明かし的な物はないと思います。江南さんは、何か種明かし的な物があると思われた

のですか?」


江南:あればあったで、面白いかなと思いましたよ。


江南:今回はたまたま「演奏」しなかったのでしょうか。次回はご自身のギター演奏だけにな

るというようなことも考えての今回の作品でしょうか。


松本:「演奏しなかったのはたまたまといいますか、今回の録音は、私が辰巳さんにデモを渡し

て、それを彼女がとても気に入って録音したいと言ってくれたのがたまたまピアノソロの曲だっ

たので、そのような経緯があります。多分、辰巳さんに嫌われたりバンドから逃げられたらギター

ソロになると思います。」




まったく異なった背景の二人が交差して天体。お互いについてわかるところ、わからないところ、

わからないところをわからないままにしながら物語は進んでいくのだろうなという感想を僕は持っ

た。

辰巳加奈という音楽家を軸に展開してきたインタビュー。気がつけば松本智仁という物語も並走。

自身も自転しながらお互いが引力にひかれて共鳴していく「天体」。二人の作品のタイトルは

voyage」。


最後にアウトロを。